Question And Answer

大豆から薬ができる時代─ 予防医学と治療医学の境界線を超えて ─

落合式ハイプレッシャー法の生みの親である落合孝次氏(大豆エナジー 取締役)へ
大豆エナジーの研究内容についてお話を伺いました。

  • 落合孝次
    落合孝次
  • インタビュアー:小畑由香
    インタビュアー:小畑由香
小畑
世界の大手製薬会社が膨大な<合成化合物>をライブラリーとして蓄積して新薬の開発にしのぎを削っているときに、何故、大豆エナジーは<天然化合物>にこだわるのでしょうか。
落合
新薬の可能性が期待されるリード化合物の数は<合成化合物>だけで約1,000万個以上あると言われています。
一方、<天然化合物>は1万個以下に過ぎません。1,000対1の構図になっています。
小畑
だったらますます<合成化合物>の方に軍配があがりますね。
落合

ところが過去30年間に承認された薬の60%が<天然化合物>由来です。
すなわち1,500倍も<天然化合物>の方が薬になりやすい結果となっています。

  • 過去30年に承認された医薬のリード化合物
  • 新薬の可能性
小畑
それはなぜですか。
落合
2000年頃からITを駆使したリコンビナント合成技術とロボット技術、スーパーコンピューターの進展により合成化合物ライブラリーを用いたハイスループットスクリーニングが全盛となりました。ジャーナルでは、新薬の開発にもはや東海岸の医学系や薬学系の人間は不要で、これから西海岸のシリコンバレーを中心に工学系の人間の時代が到来したとまで云われました。
しかし合成された化合物や誘導体の構造に多様性の限界があることが判明し、当初期待したような結果にはなりませんでした。
小畑
天然化合物の方が多様性の面では優れているということでしょうか。
落合

その通りです。例えば下の図はタキソールというイチイの木由来のアルカロイド系の抗ガン剤で年間3,000億円以上の売上を誇っています。

  • タキソール
  • イチイの木

非常に複雑でユニークな構造をもっていまして合成技術ではなかなか作製できるものではありません。
タキソールように多くの植物由来の薬がガンの治療の現場で活躍しているのです。

小畑
しかし<天然化合物>は、①新規化合物の発見の難しさに加えて②単離精製や構造解析に長時間を要し③誘導体の合成が困難です。だから大手製薬会社はスピード面、コスト面から<合成化合物>にシフトしたのではないでしょうか。
落合

ところが、わたし達は植物の葉、根または茎から抽出するのではなく、種子から無限と言っていいほどの<膨大な多様性を備えた新規天然化合物>を短時間に誘導して創りだす技術を確立することに成功したのです。
この技術を発見者の名前に因んで<落合式ハイプレッシャー法>(特許番号5795676)と名付けました。(私の名前ですけど……(笑))

その技術は特許やノウハウに絡むので詳しくは開示できませんが、発芽中の種子に独自のストレスを加えることで発見が困難と云われたフィトアレキシンを多種多様かつ大量に獲得することができるのです。

小畑
フィトアレキシンとはなんでしょうか。
落合

大豆のイソフラボン、葡萄のポリフェノール、トマトのリコピン、お茶のカテキンなどフィトケミカルと呼ばれるものは、植物の防御物質として有名ですが、フィトアレキシンは、外敵からのストレスが加わり様々な遺伝子と酵素が活性化した結果、生合成が促進されて出来る低分子化合物のことです。植物の免疫応答物質として強い生理活性があることで知られていますが、従来の技術では植物から採取が困難で研究が進展していませんでした。

小畑
大豆エナジーの技術では、どれぐらい多種多様大量に採取できるのでしょうか。
落合

第一弾として大豆をターゲットとして研究していますが、落合式ハイプレッシャー法を用いて創りだされた<多種多様大量な植物代謝物>を理化学研究所の植物代謝研究室がメタボローム解析・トランスクリプトーム解析の両面から、精密分子量・関与遺伝子・転写因子の情報を解析し、得られた情報をもとに九州大学が化学構造の解析と決定を行います。

構造解析

画像を拡大する (理化学研究所代謝システム研究チーム調べ)

この技術を用いて大豆からはエストロゲン様の活性が示唆される未知フィトアレキシンだけで107種類を世界に先駆けて発見しています。
アメリカや日本の研究機関で大豆のゲノム解読が進み、かつ、この10年で分析機器の速度が100倍になったことで解析や分析が可能になったのです。

今後、大豆だけでも新規フィトアレキシン(多様化した植物ステロイド、アルカロイドを含めて)を 1,000種以上獲得する予定です。
創薬では多彩な機能をもつ低分子化合物を数多く発見することがキーポイントとなりますので多様性は非常に重要です。

小畑
発見されたフィトアレキシンは本当に創薬のリード化合物になりえるのでしょうか。
落合

2015年に熊本大学の発生医学研究所の中尾光善教授らは注目すべき研究成果をネイチャーに発表しました。治療困難な再発乳がんに葡萄由来のフィトアレキシンのひとつレスベラトロールという低分子化合物が効いたことを証明したのです。

小畑
なぜ効いたのでしょうか。
落合

おそらく合成技術では不可能な非常にユニークな天然の構造が鍵だったと思います。そこで我々が大豆から抽出に成功したフィトアレキシンのひとつであるグリセオリン I という物質を熊本大学の中尾研究室で投与してもらうと、より選択性が高く再発乳がん細胞を死滅させました。
グリセオリン I にはプレニル基というものがついていて疎水性となり、その結果、油でできている細胞膜や核膜にも邪魔されず核内受容体まで届いたのではと推測しています。
大豆から薬が出来る時代が来るかもしれません。

グリセオリンI投与の結果、レスベラトロール同様にエレノアのシグナルが消え、細胞増殖が停止した。

画像を拡大する (熊本大学発生医学研究所調べ)
小畑
今後の大豆エナジーの展開を教えてください。
落合

わたし達は植物がつくり出した有用物質よりも、ゲノム解読が進んだわけですから植物が有用物質をつくり出すメカニズムそのものにむしろ関心があります。メカニズムがわかれば、大豆の眠っている遺伝子を揺り起こし未知なる物質を次々と大豆みずからつくり出してもらいたいと思っています。植物種子は実に35万種類にものぼりますが、ターゲットとしてはまず大豆。将来的には葡萄(レスベラトロール)、ブロッコリー(スルフォラファン)、紅花(セロトニン)なども考えています。

10年以内に天然化合物で創薬のリード化合物になり得る物質5万種類を発見し獲得することを目標にしています。2017年現在、天然化合物の創薬候補が1万個に対して10年後には大豆エナジーが5万個あらたに揃えるということになります。

小畑
大豆エナジーは創薬ベンチャーを目指すのですか。
落合

いいえ。我々は世界最大のフィトアレキシンライブラリー会社として、食品と医療品の境界を超えていきます。食品分野では優れた新規機能性素材を、創薬分野では新規発見天然化合物を切れ味のよい創薬リード化合物として開発意欲の高い欧米の製薬会社に提供していきます。製薬会社との共同研究を通して、マイルストーン的にロイヤルティ収入を得る道を選びたいと思います。

  • 大豆エナジー
  • 大豆エナジー社員一同